地域文庫という居場所

訪れたきっかけ

その場所に初めて行ったのは、1年ほど前のこと。2人目の4ヶ月健診の際に、住んでいる区内の地域文庫一覧表をもらったことがきっかけだった。元々私は図書館や本屋が好きで、1週間と空けず足を運んでいる。地域文庫という存在にも興味があったので、自宅から最寄の場所を調べて、赤ちゃんを連れて足を運んだのだった。

地域文庫・家庭文庫とは、こどもが本と触れ合える場所のことで、地域の有志の方がボランティアで運営してくださっている場所を指すらしい。私がこどものころ住んでいたマンションでも、マンション名を冠した「◯◯文庫」という曜日限定の私設図書室があった。その運営に携わっていた隣の部屋の方が毎週私のためにたくさん本を借りてきてくれていた。その文庫で借りた本の中では、今でも忘れられない本が数冊あって、カンボジアの地雷をテーマにした本、放射能漏れ事故で集団避難する本などが思いつく。こども心に大きな印象を残した本を挙げたが、思えば、その文庫も自分が読書好きになったきっかけなのだろう。

地域文庫の魅力

特に電話での問い合わせもせず、開催曜日にふと訪れた私と赤ちゃんを、母親と同世代かお若いかくらいの方たちが、たいそう温かく迎えてくれたのだった。「文庫が開いているときには入り口に目印のくまがいます」ということだった。そして、自分で貸出カードに借りたい本を書き、返すときにチェックを入れるという簡単な仕組みを教えてくれた。本の整理は地域文庫の方が行ってくださる。貸出期間は1ヶ月とのことだったが、多少過ぎても問題ないとのこと。赤ちゃんのミルクやおむつ替えももちろん自由。「こういう本はありますか?」という質問にも、丁寧に答えてくださるし、ぐずった赤ちゃんとも遊んでくださる。

一番魅力的なのは、地域文庫を運営する方たちが、時々紙芝居や絵本を読んでくださること。人形劇を披露することもあるらしい(こちらは残念ながら見られたことがない)。そのほかに、課題の本を決めて読書会を開催したり、クリスマスにはハンドベルを披露したりなどのイベントもあるとのこと。初めて訪れた日から、少し上の世代の方ならではの、紙の本への敬意や豊富な知識、本や紙芝居の魅力を声と共に伝える表現力、こどもだけでなくその親への温かい目線・・・それら人間的魅力の虜となり、私は自身の癒しの場所として、毎月1回なるべく足を運ぶようにしている。

つい先日は、石井桃子さんの生前の活動に興味を持ち、地域文庫を訪れてみたいという母と一緒に向かった(石井桃子さんは荻窪でかつら文庫という地域文庫を運営されていた。現在、その運営は東京子ども図書館に引き継がれている)。母も私と同じように運営する方たちに興味を惹かれ、いろいろと話しかけていた。

こどもの心を捉える本たち

1歳5ヶ月になろうとしている下の子は今、自分の足で歩くことが大好き。そんな娘のために、地域文庫の方が選んでくださったのが『どんどこももんちゃん』(とよたかずひこ さく・え、童心社)。娘自ら選び、熱心に読んでいるのが言わずと知れた大人気作品『だるまさんが』『だるまさんの』『だるまさんと』(かがくいひろし さく、ブロンズ新社)。こちらの作者の没後初回顧展「かがくいひろしの世界展」が全国巡回中らしい。東京での展示はもう終わってしまっているけれど・・・特別支援教育の教員だった作者の方の作家期間はたった4年とのこと、非常に興味深い。この絵本を読むと娘は、愛嬌あふれるだるまさんの全ポーズを嬉しそうに真似する。

そして、最近本への興味が薄れてきたかのように感じられる上の子が「怖い話が読みたい」というので、おすすめを伺ったところ、地域文庫の方が『怪談えほん』シリーズ(岩崎書店)を教えてくださった。バラエティに富んだ作家と画家の組み合わせがかなり豪華・・・しかし中には結構怖い読後感の作品もある。そんなふうに地域文庫は、我が家の読書風景を日々豊かにしてくれる貴重な場所だ。

育休中のごほうびデー

お出かけ先は原宿に決定

育休中にふと思い立って、赤ちゃんをシッターさんに預け、半日だけひとりでお出かけする時間を作った。

行き先を考えるのも楽しかった。
美術館に行くか、映画館で映画を観るか。
「美術館に行く」ことは、今年の目標のひとつだった。
子育てが始まってからは、抱っこ紐に入れて美術館に行ったことはあるが、ある程度大きくなるとゆっくり見られないので、自然と足が遠のいていた。

調べてみる中で、開催中の展覧会のなかでは2つ気になるものがあった。
ひとつは、東京ステーションギャラリーで開催中の、『生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った』(2025年1月25日(土) – 3月16日(日))。
駅でポスターを見かけて、味わいのあるアップリケに惹かれていたが、美術館まで片道1時間かかってしまうのが難点。

もうひとつは、原宿にあるギャラリー「BLUM 東京」で開催中の『元永定正 + 中辻悦子 「記憶の残像」』(2025年2月14日(金)〜2025年4月4日(金))。
こちらのギャラリーは初めて知ったが、『もこ もこもこ』(谷川俊太郎/作 元永定正/絵)という絵本が好きなので、良さそう!と直感的に感じた。私は詳しくなかったのだが、中辻悦子さんは、グラフィックデザイナー・造形作家で、画家・絵本作家である元正さんと夫婦であり、ともに前衛芸術を手がけたアーティストとのこと。

原宿なら、片道30分強で行けるし、ギャラリーなら美術館よりも所要時間や入場料などのハードルが低い。ついでに幡ヶ谷に住んでいた20代の頃にちょくちょく訪れていた、居心地のよいカフェ、タスヤード(Tas Yard)にも立ち寄るというプランを立てた。

おしゃれなギャラリー

当日はお天気。シッターさんは素敵な方で、安心して赤ちゃんをお任せできた。
原宿は本当に久しぶり。10代には友達とショッピングしながら竹下通りをうろうろしたり、20代にはデートで代々木公園に行くのが好きだったりしたけれど、直近の記憶は妹が明治神宮で結婚式を挙げたこと。それすら、5年以上前のことになる。

「BLUM 東京」は、原宿駅竹下口を出てすぐ、「原宿神宮の森」というビルの5階。ギャラリー内は、思いがけず明るく開放的な空間だった。抽象的でカラフル、もにゃもにゃとかわいらしく、どこか地球外生命体や内臓を思わせる作品がたくさん飾られていた。描かれた物体にはしごがぶら下がっているので、なぜかUFOを連想させる。他にお客さんの姿もなく、ひとりマイペースに作品たちの醸し出す不思議な雰囲気を楽しむ。

一室に、ギャラリーの所有すると思われるアート関係の本ばかり並ぶ本棚があり、手にとっていいのか迷ったが、元永夫妻の手がけた絵本が並べてあったので、一冊ずつ吟味する。
『もけら もけら』(山下洋輔/文 元永定正/絵 中辻悦子/構成)という豪華メンバーによる絵本は、言葉の響きがとても面白く、ぜひ入手したいと思った(帰り道で注文した)。芳名帳に名前と感想を残し、ギャラリーを後にする。

15年ぶりに訪れたカフェで

目当てのカフェ、タスヤードは、原宿と千駄ヶ谷の中間地点くらい、通っていた当時はなかった東京メトロ副都心線の北参道駅が最寄りとなる。
原宿の喧騒からは遠い、静かで落ち着いたエリアだ。
ランドスケーププロダクツがお店のデザインを手がけていると友人が教えてくれたお店で、オープンしたのは2004年とのこと。
幡ヶ谷に住んでいたのは2007年〜2011年ごろだったから、頻繁に訪れていたのは15年近くも前になる。

客層は幅広く、おしゃれな若者のグループ、ひとりランチを楽しむ初老の男性、仕事の打ち合わせをする人々、赤ちゃん連れで談笑する女性たち・・・誰もが不思議と馴染む、それでいて洗練されたお店の雰囲気は昔と全く変わっていなかった。当時も、近くに会社があって、店内で打ち合わせをするような人々に憧れていた。
深く考えず注文したスコーンは、大きくて熱々、ゴロゴロとドライフルーツや木の実が詰まっていて満足感たっぷりだった。添えられていたのがバターだったことも新鮮な感動を呼ぶ。

注文を取ったり水を運んだり、素早い動きかつ温かい風情の店員さんも、メニューの相談をする男性に対して、「もしお腹がすごく空いていたら、こちらがおすすめですよ」というお腹空きに親身なアドバイスも店員さんもとても素敵。

私は、昔からカフェで何時間でもぼーっと過ごすのが好きだった。
15年ほどの月日の間に自分は転職したり、結婚して子供も生まれたけれど、大筋のところや好きなものはあの頃と全く変わっていないことを再確認して、なんだか安心した。
お店の佇まいが20年以上経っても変わっていないことも。

赤ちゃんを連れて遠出できないと決めてかかっていたけれど、意外に今日のコースは赤ちゃん連れでも大丈夫だったかもしれない。
ひとり時間を満喫できた貴重なひとときに感謝し、赤ちゃんとシッターさんに深々とお礼の気持ちを伝えた。